3.麻原彰晃に接見した精神科医の見解
聡香さんが父(麻原彰晃)を詐病と悟ったという面会の前、控訴審を担当していた弁護士は被告に訴訟能力があるかどうかの鑑定を、2004年10月以降に独自に精神科医に依頼して行った。
このとき鑑定を行った7人の精神科医は、いずれも被告の訴訟能力について否定または疑問視している。
2006年2月24日に面会して鑑定を行った、加賀乙彦氏は著書「悪魔のささやき」の中で麻原彰晃の様子を次の様に述べている。
『接見を許された時間は、わずか30分。残り10分になったところで、私は相変わらず目をつぶっている松本被告人の顔の真ん前でいきなり、両手を思いっきり打ち鳴らしたのです。バーンという大きな音が8畳ほどのがらんとした接見室いっぱいに響き渡り、メモをとっていた看守と私の隣の弁護士がビクッと身体を震わせました。接見室の奥にあるドアの向こう側、廊下に立って警備をしていた看守までが、何事かと驚いてガラス窓から覗いたほどです。それでも松本被告人だけはビクリともせず、何事もなかったかのように平然としている。数分後にもう1度やってみましたが、やはり彼だけが無反応でした。これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態におちいっている。そう診断し、弁護団が高裁に提出する意見書には、さらに「現段階では訴訟能力なし。治療すべきである」と書き添えたのです。
(中略)
松本被告人も詐病ではない、と自信を持って断言します。たった30分の接見でわかるのかと疑う方もいらっしゃるでしょうが、かつて私は東京拘置所の医務部技官でした。拘置所に勤める精神科医の仕事の7割は、刑の執行停止や待遇のいい病舎入りを狙って病気のふりをする囚人の嘘や演技を見抜くことです。なかには、自分の大便を顔や身体に塗りたくって精神病を装う者もいますが、慣れてくれば本物かどうかきっちり見分けられる。詐病か拘禁反応か、それともより深刻な精神病なのかを、鑑別、診断するのが、私の専門だったのです。
松本被告人に関しては、会ってすぐ詐病ではないとわかりました。拘禁反応におちいった囚人を、私はこれまで76人見てきましたが、そのうち4例が松本被告人とそっくりの症状を呈していた。サリン事件の前に彼が書いた文章や発言などから推理するに、松本被告人は、自分が空想したことが事実であると思いこんで区別がつかなくなる空想虚言タイプだと思います。』
かつて東京拘置所の医務部技官で、拘禁反応におちいった囚人を76人も見てきた氏の鑑定結果には非常に重みがある。
同様に、2006年1月6日に麻原彰晃に接見した野田正彰医師も、著書『「麻原死刑」でOKか?』の中で面会した麻原彰晃の状態について以下の様に述べている。
『全体から私が受けた印象は、まあ夢幻状態ですね。ぼーっとして、内面にいろんな考えが浮かんだりしながらそれに反応しているという症例の状態とよく似ているな、と思ってみておりました。で、黙って見つめているとですね、次第に顔を動かす動作も独り言も、「うぅ、うぅ」もなくなってきた。
私は途中で松本氏の反応がなくなったら、本人にとって感情を刺激すると思われる娘さん二人の名前と、それから彼が法廷で、信頼していた弟子の井上に裏切られたということで反応したそうですから、井上の名前を出そうと思っておりまして、この三つを呼びかけました。しかし、今言っていた状態は全然変わりません。二十分くらい経過して、私は、まあそれも最初から考えてあったのですが、みんな言葉で麻原を刺激しているから意表を突こうと思っていまして、アクリル板の下をパンパンと叩きました。そのときにはですね、ぴくっと、左眉を上方に動かしました。それ以外の反応はなく、二十五分を経過した頃には眠っているかのような様子になっていったわけです。
この30分間の面接から私の受けた印象は、緊張型の統合失調症のような、全面的な意思の表出を止めた昏迷だとは思えませんでした。拘禁反応だと思いました。拘禁反応は、目的反応と精神医学では言いますが、非常につらい状況から逃げ出すための反応であります。意識的な仮病ではなくて、これは意識下で行われていると私たちはかんがえておるわけですけれども、心因反応性のこういった拘禁反応の場合は、完全な意思表出停止ではなく、部分的になんらかのちょっとした反応が見られるということはありますから、まあ昏迷状態と言っていいだろうと考えました。』
野田氏も加賀氏と同様に、麻原彰晃は拘禁反応の混迷状態であると言っている。
また二人がそろって、適切な治療を施せば3ヶ月から半年で症状が改善し、意思疎通ができるようになると言っているが、東京拘置所が治療を施したという話は聞かない...
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